6481人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
早苅 晶side
今日はしくった。不意打ちをくらい、倒れていた隙をつかれ、隠れていた大勢に寄ってたかられたのだ。
たまにある事だが、ちょっと傷を負いすぎた。何とかして逃げて、這いずるようにここへ戻ってきたが、まさか真がまだ起きているとは思わなかった。
ぽた、と俺の腕に水滴が落ちる。
見ると、真の目からはぽろぽろと涙が零れていた。
奥が真っ赤な、不思議で美しい目には膜が張り、より一層きらきらとしている。
俺は一瞬その光景に息を呑み、分からなくなった。
なんでお前が泣いてる?
なんでお前がそんなに酷く辛そうな表情をするんだ?
それと共に、真にこんな表情をさせているのが自分だとと思うとどうにもやるせない気持ちになった。
手際良く真が治療を終えて、救急セットを片して俺の所へ戻ってくる。
昨日と同じような沈黙。
俺が口を開こうとしたのと同時に、真が言葉を発した。
「俺、多分、お前に助けられたことあるんだよ。」
「...は?」
突然の予想外な話に間抜けな声が出た。
「1年のまだここに入ったばっかりの頃、買い物した後、ガラ悪いやつらにぶつかっちゃって。金出せって言われたんだけど、ちょうど使い切っちゃってて、俺、あいつらにリンチされる寸前だった。
その時、黒髪の男がいきなり出てきて、俺を逃がしてくれたんだ。 」
去年の始め、俺がまだ黒髪の頃。心当たりはあり過ぎるほどだ。
「写真立て見て、まさかと思った。
...あれ、晶だったんだろ?」
親に捨てられたばっかりで自棄になってた俺が見つけた、リンチ寸前の前髪男。
特徴的なこの目を覆い隠すように伸ばされていたから、俺は気づかなかったけど、あれは、目の前にいるこいつだと言うのだ。
「...あの時の、前髪クソ長いし、どうにもお人好しな感じで、わざわざ礼まで言って行ったやつ?」
あの時の事を思い出すように口にすると、真の目がぱっと輝いて、気づいた時には凄い勢いで抱きつかれていた。
最初のコメントを投稿しよう!