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「んー……」
テレビの前。腕を組んで画面を睨みつける。
「こんなの聞いてない…」
春休みスペシャルみたいなので、歌番組が半日くらいの生放送をやっている。
毎年この時期にスペシャルはお決まりだけど、まさか…
ハワイから中継でゆうとが出るなんて。聞いてなかったし。いや、別に裕翔がどんな仕事しようが俺には関係ないっていうか…口出ししないから。裕翔がわざわざ言わないのも当たり前だけど…。こんな長時間の生放送に出るならこの間帰って来た時もっとちゃんと休ませたのに。裕翔のやつ無理しやがって。
しかもこの歌番組の出演がおわったらすぐに現地のファンと握手会なんて…
ハード過ぎる。それに握手会ある時は毎回やる前に俺に言ってたのに。なんで今回は言ってくれなかったんだろう。急に決まったとか?だとしてもメールくらい…いや、国内じゃないから仕方ないかな…。でも、でも。だからって。
「あーもう…」
埃被っていたリモコンでテレビを消す。静かな部屋は余計に静かになって余計に虚しくなる。
テレビなんか見るんじゃなかった。そしたら、こんな思いしなくてよかったのに。
「………」
生活感の無い裕翔の家を見渡す。
さっき埃を落としたガラステーブルは、俺が一緒に選んだ物。滅多に開けないカーテンも俺が選んだやつ。ソファーに置かれたクッションもテレビの横のグリーンも。裕翔の家を構成する殆どの物が俺が選んだ物。
これって、恋人がする事なのかな?
「ぐちゃぐちゃだぁ……」
裕翔が好きだから裕翔の為になる事ならなんだってしたいと思う。でも、それはただの俺の自己満足に過ぎなくて。裕翔が実際に喜んでいるのか解らない。裕翔は優しいから受け入れてくれているだけかも。
そんな事を考えてしまうくらいに最近は裕翔と一緒に居ない。
綺麗に畳んだ新しいベッドのシーツの横に力無く倒れる。薄い空色のシーツ。ゆうとの部屋にぬいぐるみを置くなんて趣味の悪い事は考えるのもやめた。
やっぱり俺はゆうとを含めて裕翔が大好きだから。悲しむ裕翔を見たくない。
ファンが求めるゆうとを俺は支えてあげよう。
「ゆ…と……」
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