呼ぶ声

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「何でママがここに?」 不思議そうな顔で綾が見つめて来る。 「そんなことよりこっちよ!」 早紀は娘の手を引いて、そのまま建物の横を回って港に向かった。 「な、そんな……」 港側に回った途端、早紀は唖然として立ち止まる。 船が無いのだ。 たった今、早紀をここまで送ってくれた高速艇。 あれがなければ逃げられない。 「何で? 何で無いのよ?」 「何が無いのママ?」 「船よ。私が乗ってきた船」 「あそこ!」 綾が指差した先に、島から離れていく船が……。 「ちょっ、何でよ!?」 「とにかく逃げないと」 呆然としている早紀に向かって健太郎が声をかけた。 「でも、どこに?」 山道はゾンビ化した島民が下ってきているし、他に道はない。 海沿いに島の周りを……と思っても、とても無事に逃げられるとも思えなかった。
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