呼ぶ声

7/15
前へ
/716ページ
次へ
「とにかくどこかに逃げなきゃ」 健太郎にももちろん何の良案も無い。 でもこのままここにいては、殺されるのを待つだけである。 早紀はふと思った。 そういえば……昔、母が住んでいた家の裏山は、決して登れなくはなかったはずである。 「行きましょう」 「どこに?] 綾に聞かれたときには、すでに早紀は綾の手を掴んで建物の裏手に向かって走り出していた。 僅かなタイムロスのせいで、島民たちはもうほとんど麓まで下りて来ている。 裏手に回った三人は、そのままオブジェのわきを走りぬけた。 早紀はまたしても呆然として立ち止まる。 母の生家はすでになく。 その背後の山は、すべてコンクリートで固められていたのである。 そこまで急斜面ではないが、途中に掴まる木も何もない。 果たして女の力で上りきることが可能なのか不安である。 とはいっても、行かなければ死ぬのを待つだけなのだ。 振り返れば、ゾンビの群れが近づいて来ている。 「行かなきゃ」 早紀は腹を決めた。
/716ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3180人が本棚に入れています
本棚に追加