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「ねぇママぁ、パパ何て?」
綾が身を乗り出して聞く。
「うん。今日は泊まって、明日帰って来いって」
「ふ~~~ん。って、それどころじゃないよ」
「そうよね。すぐに警察に電話しなきゃ」
早紀は携帯電話を見る。
今度は圏外の文字が消えて使用可能になっていた。
「待ってママ」
「え?」
「あの音……船の音じゃない?」
綾が海のほうを見るけど、ここからでは美術館が邪魔で、海は見ることが出来ない。
「行ってみよう」
健太郎が走り出すのに合わせて、綾は早紀に肩をかしてその後を追う。
建物の横を駆け抜け、港側に回った健太郎の目にこちらに向かってくる数隻の船が見えた。
「船だ!」
健太郎が二人に向かって叫ぶ。
さっき早紀を一人残して本土に帰った、高速艇の後藤船長が海上保安庁に連絡を入れてくれていたのだ。
慌ただしく上陸して来た海上保安庁の隊員に、三人は興奮して今起きた出来事を語る。
船の残骸があるから、事故の可能性があるとだけ聞いてきていた隊員たちは、
よもやそのすぐ後に、由加里と茶和子の死体を見せられることになるなど思ってもいなかった。
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