序章 「ミドリノキノコ」

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 俺は夢を見ている。 それだけは何となく認識していた。  俺は三流大学の二年生。 特にやりたい事とか、なりたい職業とかあった訳じゃないけど、周りのヤツと同じように何となく大学に進学した。 これまた特に趣味がある訳でもなく、サークルに入る訳でもなく、夢中になったり、打ち込めるものもない。 てきとーに大学行って、てきとーに遊んで、たまにはてきとーにバイトして。 何の変化も無い毎日の繰り返し。 つまんないな。なんか面白い事でも起きないものか。 無関心と無気力の日常は退屈そのもの。 これからもてきとーな企業に就職して、てきとーに仕事をするんだろうなぁ。 こんな俺の口癖は「なんか面白い事ないかなー」だ。  こんなテレビドラマの冒頭の自己紹介風に心の中で喋ってる自分がいた。 夢を見ていると、自分が客観的に見える。 ちょうど自分が主人公のドラマを、リアルタイムでもう一人の自分がテレビで見ているみたいだ。 夢なんてそんなものだろう。  とにかく「なんか面白い事」を待っていた俺は、「なんか面白そう」な夢を見ているらしい。 特に今いる夢の中に面白い物は何一つ無い。 だが、やたらと感覚がリアルなのだ。  ここは子供の頃遊んだ事があるかもしれないし、ないかもしれない林の中。 夢には付き物の曖昧な場所だ。 夢ってのは記憶が元になってるらしいから、ひょっとしたら来た事があるのかもな。 林の入口から少し進んだ、余り木の生えていない開けた場所に俺は居た。  時間は早朝だろうか。 低い位置から薄い日の光が差し込んでいる。 まだ夜が空け切って無い所為か、林にいる所為かまだ完全には明るくはなっていない。  ひんやりとした朝独特の空気を肌に感じた。 空気の流れまで感じ取れるほど感覚が敏感だ。 足にはしっとりと湿った土と、そこに生えた雑草を踏み締める触感をハッキリと感じる。 どこからか「チュン、チュン……」という小鳥の鳴き声まで聞こえている。 こんな妙にリアルな夢は初めてだった。
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