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「たまにはこんな服もいいかもな」
スカートの裾を両手で持ち上げ、右へ左へと鏡に写る自分を見ながら神楽は呟いていた。
「いつもジーンズだし、目先を変えるのにいいかもな」
「やけに上から目線だな貴様は」
意識して上から目線になってるわけじゃない。ただ、見慣れぬ神楽の姿に恥ずかしさを感じ、饒舌になっているだけだった。
「意外とそんな服も似合うんだな……馬子にも衣装ってやつか?」
「歯を食いしばれ!」
「いきなり好戦的になるなよ!」
饒舌を通り越して、口が滑ってしまった。
そんな俺らを見ていた穂香は、ちょっとむくれたような表情をしたかと思えば直ぐにその場から移動し、服を手にして自分も試着室に入っていった。
神楽と同じように試着室の中からゴソゴソと音が聞こえる。
試着しているのは間違いない。
それにしても遅いのだ。ここまでくると、穂香の運動神経は日常生活にまで支障をきたしているのではないかと同情を通り越し哀れんでしまう。
時折聞こえる小さなわめき声。揺れるカーテン。どこかにぶつけたのか微かな悲鳴。
学校ではこんな事は一切無い。
いや、体育の着替えの時は知らないが、それでもここまで酷くないだろう。
それでも、俺にとっては穂香はこんなものだった。
どんなに容姿端麗、成績優秀、人望が厚くても「可哀想な娘」でしかない。
そんな「可哀想な娘」が、やっと試着室のカーテンを開けたのだった。
「はぁはぁ……ど、どうかな?」
試着で息切れを起こしている穂香を生暖かい目で見てしまう。
試着した穂香も、神楽と同じようなワンピース姿だった。
薄いピンクでひらひらの付いたワンピース。そんな姿を学校の男子に見せたら報復絶賛間違いなしだろうが……
「お前の私服って、そんなのばかりだよな」
「そんな事を聞いてるんじゃなーい!似合うか似合わないか聞いてるの!よく見てよ!」
「似合うっていえば似合うけど……」
「けど?」
「スカートの裾が引っ掛かってパンツ丸見えだぞ」
「きゃぁぁぁっ!見るなーっ!」
「見れとか見るなとかどっちだよ!」
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