Episode1.さくら色な乙女のスガオ

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そんな始業式の日から二日が明けた。 夕方、オレは生きた心地がしていなかった。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」 決して、発電のさせすぎで苦しいわけではないが、説明をしないとそう思われる文だな、こりゃ。 オレは今、走っている。 全力で、焦りながら。 向かっているのは、学校だ。 「なんで、二年になって早々に、オレは、こんなことしてるんだ……」 今年度の数学教師は、校内でもっとも恐れられている鬼教師。 彼女から出された早速の課題。これを明日までに出さないとならない。 だというのに、オレはそれを教室に置いたまま、下校してしまった。 そんな自分が情けなく、呆れていた。 校門をくぐり、急いで校舎へ走る。 だいぶ息が荒くなっている。それでもオレは教室へ走っていた。 「あ、あと少しだ……!」 教室は二階。 もうすぐ目前となる階段をのぼれば、もう目と鼻の先だ。 ――その時。 「うわッ!?」 「え、きゃあッ!?」 不意に誰かとぶつかってしまった。 「ご、ごめん、急いでて前見てなかったっ……」 「い、いえ、わたしの方こそ、前方不注意でっ……」 ぶつかった拍子に散らばった、相手の所持品を回収していく。 最後の一枚で、オレと相手の手が触れた。 一歩出遅れたオレの手のひらが、相手の白いなめらかな肌の手のひらに被さっている。 不意にドキリとしてしまい、反射で手を離して相手の顔を見た。 「あっ、ごめっ…………ぅえ?」 「……あ」 陶器のように白く透き通った肌。 大きな黒い瞳に長いまつ毛。 高すぎず低すぎない鼻。 ぷるりとした艶やかな唇。 腰の辺りまである長くて美しい髪は、綺麗な漆黒で……。 ――見 た こ と あ る ぞ 、 こ の 人。 「し……」 「く……」 この人は、間違いなく、オレを一瞬で魅了した……。 「白石 砂羽!?」 「黒崎 一馬!」 二人の声がシンクロした。 って…………え? 今、オレの名前読んだ? 「えっ……」 「…………さ、さん」 いや待て。それもそうだが、この後付けな『さん』はなんだ? え、白石って、あの清楚でおしとやかで、礼儀正しくて、美少女な白石 砂羽(シライシ サワ)だぞ? そんな彼女が、人の名を呼ぶ際に『さん』を後付けするわけないだろう? げ、幻聴だよな、ハハハ……。
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