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そんな始業式の日から二日が明けた。
夕方、オレは生きた心地がしていなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
決して、発電のさせすぎで苦しいわけではないが、説明をしないとそう思われる文だな、こりゃ。
オレは今、走っている。
全力で、焦りながら。
向かっているのは、学校だ。
「なんで、二年になって早々に、オレは、こんなことしてるんだ……」
今年度の数学教師は、校内でもっとも恐れられている鬼教師。
彼女から出された早速の課題。これを明日までに出さないとならない。
だというのに、オレはそれを教室に置いたまま、下校してしまった。
そんな自分が情けなく、呆れていた。
校門をくぐり、急いで校舎へ走る。
だいぶ息が荒くなっている。それでもオレは教室へ走っていた。
「あ、あと少しだ……!」
教室は二階。
もうすぐ目前となる階段をのぼれば、もう目と鼻の先だ。
――その時。
「うわッ!?」
「え、きゃあッ!?」
不意に誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめん、急いでて前見てなかったっ……」
「い、いえ、わたしの方こそ、前方不注意でっ……」
ぶつかった拍子に散らばった、相手の所持品を回収していく。
最後の一枚で、オレと相手の手が触れた。
一歩出遅れたオレの手のひらが、相手の白いなめらかな肌の手のひらに被さっている。
不意にドキリとしてしまい、反射で手を離して相手の顔を見た。
「あっ、ごめっ…………ぅえ?」
「……あ」
陶器のように白く透き通った肌。
大きな黒い瞳に長いまつ毛。
高すぎず低すぎない鼻。
ぷるりとした艶やかな唇。
腰の辺りまである長くて美しい髪は、綺麗な漆黒で……。
――見 た こ と あ る ぞ 、 こ の 人。
「し……」
「く……」
この人は、間違いなく、オレを一瞬で魅了した……。
「白石 砂羽!?」
「黒崎 一馬!」
二人の声がシンクロした。
って…………え? 今、オレの名前読んだ?
「えっ……」
「…………さ、さん」
いや待て。それもそうだが、この後付けな『さん』はなんだ?
え、白石って、あの清楚でおしとやかで、礼儀正しくて、美少女な白石 砂羽(シライシ サワ)だぞ?
そんな彼女が、人の名を呼ぶ際に『さん』を後付けするわけないだろう?
げ、幻聴だよな、ハハハ……。
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