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「お、オレの名前、知ってたの?」
「え、ええ。席、近いので」
「あ、あぁ、そうか」
そりゃそうだよなぁ……ははは。
「あ、これ……」
「! ダメっ……!」
いらない期待はあっさりと潰された。
気を取り直して、彼女が落とした一枚の紙切れを拾った。
……拾ってしまった。
「返せ!」
「…………あ、はは……」
すぐに白石にかっぱらわれたが、その紙に記載されていたものは、オレの脳裏に鮮明に残っていた。
「……み、見たな?」
「あぁ、えーっと……」
なんだか白石の口調もおかしい。
でも、そんなのは今のオレには、些細なことだった。
「……さ、さよなら」
「……“魔法少女 ナツメ☆まてりあ”」
「ぎくぅっ!?」
嘘だと言ってほしかった。
だが、彼女の反応はまったく違う。
「お、“俺の妹は最凶小悪魔”」
「あぐっ……」
そう、この反応は……。
「…………“萌えキュンコレクション”」
「あぁっ……!」
まさしく、沈黙の肯定だ。
「く、黒崎ぃ!」
「ぐおっ!?」
「忘れろ、忘れろ、今のこと全部忘れろぉぉぉぉッ!」
「あっ、がっ、ぐぇっ、ちょっ、ちょまっ」
首がっ、揺さぶられてっ、視界がっ、ぐらぐらでっ、脳震盪がっ!
「あぁぁぁぁぁぁぁ! もう生きていけない! だから忘れろ! わたしのためにすべて忘れろーーッ!」
「やめっ、やめろっ、やめてくれっ」
「っていうかむしろ死んでくれ! おまえが逝った後にわたしも逝くから! そうすればお互いにリスクはない!」
なんかっ、こいつっ、むちゃくちゃっ、言ってるっ!
「やめろっつってんだろぉぉぉぉ!」
「……ハッ」
叫んだら、白石が治まった。
あぁ、気持ち悪い……。
「す、すまない、取り乱した」
「うぇっ、げほっ、げほっ……。あ、あのなぁ……マジで死ぬところだったぞ」
「なに、ならば正気を取り戻さなければよかったのか……」
「てめぇ、日常から頭大丈夫か」
「わたしは正常だ! だから死んでくれ」
「なんにも変わってねぇじゃねーか!」
な、何なんだこいつ……。
オレの知ってる白石じゃねぇぞ…………誰だよ。
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