Episode1.さくら色な乙女のスガオ

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「……な、なあ、し、白石」 「なんだ……あ」 何を思ったのか、白石は口をおさえた。 「いや、歯になんか付いているとかではなくてだな」 「……な、なんですか?」 「ん?」 あれ……急にしおらしくなったな。 ていうか、これがオレの聞き慣れた白石だ。 「……先に聞きたいんだけど」 「は、はい?」 「おまえもしかして、学校じゃキャラ作ってるのか?」 「…………な、なんのことですか?」 しらばっくれたよこいつ……。 「その長かった間は、肯定と解釈しても問題ないな?」 「な、なんのことですか、さっぱりわたしには何を言っているのか!」 「落ち着け、日本語がめちゃくちゃになっているぞ」 「そ、そんなわけないに決まっているだろうじゃないですか!」 「いやおかしいって」 「と、倒置法ってやつ!」 「それだと普通、『何を言っているのかさっぱりわかりません、わたしには』になるだろ。あと日本語に『だろうじゃないですか』なんてわけのわからん末文は無いだろ」 「し、死語だ! そうだ死語なんだ!」 「見苦しいぞ、どんだけ意固地なんだよ」 っていうか口調が戻ったぞ。 まあ、口には出さないが。 「わっ、わたしは別にっ、いっ、いつも通りだ!」 「だから落ち着けと」 「おっ、落ち着けるか! お、おまえのような得たいの知れないやつの言葉など信じない! こ、この二年間隠し通してきたわたしの秘密を、容易く他者に売りそうなやつの言葉など!」 「遠回しに変質者と言われている気がしてならない! 冤罪だっていうかおまえの偏見だろ、それ!」 「偏見で何が悪い!」 「横暴だ!」 わ、わけがわからん……。 これが、あの……“校内最高美少女”と名高く、我が学校のマドンナと言っても過言ではないはずの“白石 砂羽”なのか? まるで別人じゃないか……。 「どうせおまえもバカにするんだろ! わたしの趣味を!」 「は?」 「しらばっくれてもムダだ!」 「え、趣味?」 「さっき見ただろう!」 「あ、あー……」 えーっと、確かあれは……。 「“萌えキュンコレクション”とか」 「ぐふっ!」 「“魔法少女 ナツメ☆まてりあ”とか」 「ごほっ!」 「“俺の妹は最凶小悪魔”とか」 「シャアオラァァッ!」 「危ねぇ!?」 思いっきり殴りかかってきやがった。 振りかぶるのが見えたから、避けるのは難しくはなかったけど。
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