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「偏見が偏見を生んでるんじゃ、悪循環だな。だけどさ、たとえおまえのような趣味に理解はなくても、受け入れてくれる人はいるんじゃないのか?」
「そんなの綺麗事だ」
「違う」
「なに……?」
白石は睨みつけてくる。
だがオレは、ひるまなかった。その必要はないんだ。
「いいと思うぞ、オレは。おまえの言う通り、アニメやマンガって日本が誇れる最高の文化だしな。それにオレも、マンガは好きでよく読んでるから」
「……」
「つまり、日本人=オタク嫌いかオタクっていうのはないんだよ。どっちでもない人だっている。わかるな?」
「そ、そんなことくらいわかってる」
「じゃあなんで、それもわからないのに勝手に決めつけてるんだ? おかしいだろ、そっちの方が」
「……信じていた仲間に裏切られた気持ちなど、おまえにわかるものか」
「え?」
彼女は急に表情に翳りを見せた。
なんだ? つまり、白石が決めつける理由って、それが関係しているってことか?
「……もういい。わたしは帰る」
「あ、おい」
ところが訊く間もなく、白石はオレの上から離れ、無造作に捨てられていた自分の荷物を拾った。
「……黒崎 一馬」
「なんだよ?」
「おまえは……裏切るか?」
「それを判断するのは、オレじゃなくて友達のほうだろ?」
「……そうか」
白石は、ゆっくりと廊下を歩いていった。
「白石……」
美しく、誰にも嫌われない八方美人。
だが、彼女の心の裏にひそむ闇や傷は、とても大きなものみたいだ。
「……そうそう、忘れ物してたんだったな」
思い出し、オレは教室を目指した。
だが脳裏には、彼女の悲しげな表情が焼き付いてしまっていた。
「……オレに、なにかできることはないのかな」
あいつと友達だったら、してやれないことはないのにな……。
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