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「あ、あとさ――」
「――あの、みなさん。お話をしてくださるのはとてもありがたいのですけど、困っている人も少なくないと思うんです」
そうして体を方向転換させたとき、彼女のその声が響いた。
「? どういうこと?」
「座れない方々が増えている気がするんです」
「え? あぁ……まあいいじゃん」
「よくありませんよ」
彼女は自分から動き、広い窓際に移動した。
「んー……別にいいと思うけど、白石さんがそう言うなら」
つられて周りの女子たちも動き、一気に教卓の前はがら空きになった。
オレは、席を空けてくれたことに感謝しつつ、同時に。
「これだけ完ぺきだとなぁ……」
容姿端麗、礼儀正しい、清楚でおしとやか。
それに加えて、周りに常に気を配れる要領の良さも兼ね備えた彼女のことを、余計遠くに感じていた。
「やっぱ諦めた方がいいのかな……」
オレなんて、ただの凡人だ。
自慢できるのは、イラストを描く事に関しては、ちょっとだけ得意なこと。
不釣り合いなのが明白だ。
「あー、やっと空いた」
「おぉ、貴臣か」
思案していると、どうやら隣の席だったらしい貴臣がやって来た。
「よお、恋する乙メン」
「……」
その言葉は、今のオレには禁物だよ……。
「な、なんで何も返してこねぇんだ? 逆に気持ち悪いな」
「余計なお世話だ」
「なんかあったのか?」
「別に」
「あの子か」
「別に」
「おまえはエリカ様か。しかもだいぶ古い」
「古いは余計だ」
「で?」
「……あぁ、そうだよ」
平然を装っていたのに、お見通しとは侮れないな。
「大方、まだ諦めたくないけど不釣り合いだからとか思ってたんだろ」
「まあ……そうだけど」
「諦めちまえよ」
オレは、貴臣を睨んだ。
「高嶺の花なんて、そうすぐに摘みにいけないもんだろ。摘みにいって崖から落っこちるより、見上げていた方がいい。違うか?」
「……」
「まあ最終的にはおまえが決めることだけどな。俺はオススメしない方を言っただけだ」
「……」
諦めた方が、オレのためなのかな……。
「二年生! 番号順に並びなさい! 廊下にいる子たちも、自分のクラスに戻って並びなさーい!」
……始業式の間に、決めておくか。
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