Episode1.さくら色な乙女のスガオ

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「あ、あとさ――」 「――あの、みなさん。お話をしてくださるのはとてもありがたいのですけど、困っている人も少なくないと思うんです」 そうして体を方向転換させたとき、彼女のその声が響いた。 「? どういうこと?」 「座れない方々が増えている気がするんです」 「え? あぁ……まあいいじゃん」 「よくありませんよ」 彼女は自分から動き、広い窓際に移動した。 「んー……別にいいと思うけど、白石さんがそう言うなら」 つられて周りの女子たちも動き、一気に教卓の前はがら空きになった。 オレは、席を空けてくれたことに感謝しつつ、同時に。 「これだけ完ぺきだとなぁ……」 容姿端麗、礼儀正しい、清楚でおしとやか。 それに加えて、周りに常に気を配れる要領の良さも兼ね備えた彼女のことを、余計遠くに感じていた。 「やっぱ諦めた方がいいのかな……」 オレなんて、ただの凡人だ。 自慢できるのは、イラストを描く事に関しては、ちょっとだけ得意なこと。 不釣り合いなのが明白だ。 「あー、やっと空いた」 「おぉ、貴臣か」 思案していると、どうやら隣の席だったらしい貴臣がやって来た。 「よお、恋する乙メン」 「……」 その言葉は、今のオレには禁物だよ……。 「な、なんで何も返してこねぇんだ? 逆に気持ち悪いな」 「余計なお世話だ」 「なんかあったのか?」 「別に」 「あの子か」 「別に」 「おまえはエリカ様か。しかもだいぶ古い」 「古いは余計だ」 「で?」 「……あぁ、そうだよ」 平然を装っていたのに、お見通しとは侮れないな。 「大方、まだ諦めたくないけど不釣り合いだからとか思ってたんだろ」 「まあ……そうだけど」 「諦めちまえよ」 オレは、貴臣を睨んだ。 「高嶺の花なんて、そうすぐに摘みにいけないもんだろ。摘みにいって崖から落っこちるより、見上げていた方がいい。違うか?」 「……」 「まあ最終的にはおまえが決めることだけどな。俺はオススメしない方を言っただけだ」 「……」 諦めた方が、オレのためなのかな……。 「二年生! 番号順に並びなさい! 廊下にいる子たちも、自分のクラスに戻って並びなさーい!」 ……始業式の間に、決めておくか。
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