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「んで、結局諦めるのか」
まだ日も高い昼。
始業式を終えたオレと貴臣、姫乃ちゃんは、朝も通った通学路を今度は復路として通っている。
道中、オレは貴臣に、彼女への想いについて話し、問いにうなずいた。
「まあ、賢明か」
「一馬さん、その……」
「ん?」
「……ど、どんまいです」
「……うん」
「あ、あれ?」
「逆効果」
「そ、そんなぁ……」
いいんだいいんだ……オレなんてどうせ、オレなんてどうせ……。
「姫乃ちゃん、ありがとね」
「あう、あの、ご、ごめんなさい……」
「ううん、気にしないで」
「わ、わたしがデリカシーのないばかりに……」
「いいって。お願いだから泣かないで」
「で、でもぉ……」
だめだ、止められない。すでに姫乃ちゃんの瞳に涙が浮かんでる。
「一馬、アレだ」
「仕方がないか」
こうなったときの最終手段は、ただひとつ。
「姫乃ちゃん、あとでクレープ奢るよ」
「うぅっ…………え、ふえ? くれーぷ?」
「うん、クレープ」
そう言うと、姫乃ちゃんの曇った表情はみるみる晴れて。
「えへへへ……くれーぷ、くれーぷっ」
満点で満開な笑顔の花が咲きましたとさ。
この単純さは時にありがたいけど、申し訳なくもあったりする。
「ところでよ、このあとどうする?」
表情ほころぶ可愛らしい姫乃ちゃんに呆れていると、貴臣が話を切り出した。
「どうするもなにも、姫乃ちゃんにクレープ奢らなくちゃならなくなったからなぁ。このまま昼飯も一緒に行くか」
「そうだな。姫乃もそれでいいな?」
「くれーぷ、くれーぷ、くぅれぇーぷ♪」
あいにく姫乃ちゃんは聞いちゃいなかった。
「大丈夫だとよ」
「へぇ、オレにはくれーぷとしか聞こえないのによく聞こえたな」
「兄貴をナメるな」
ドヤ顔してそう言ってくる貴臣だが、全然羨ましくないという真実。
「いつものとこでいいよな」
「異論はない」
そうして、くれーぷの歌(仮)を歌っている姫乃ちゃんも連れて、行きつけのファーストフード店へ行くことになった。
余談で、しかもその後の話だが。
姫乃ちゃんの選んだクレープは、大きさも値段もビッグなものであり、オレの懐が余計に寂しくなったことは伝えておく。
……しばらくクレープがトラウマになりそうだ。
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