2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
地図を見ながら辺りを見回す一人の少年
ボロボロのマントと、乗せているといっても過言ではないと感じる程適当に被った帽子の間から覗かせる顔には、ほんの僅かに幼さが見え隠れする。
「え~っと、この草原を抜ければ王国か……」
周りにある低い草木は朝露に濡れており、時折風により不規則に揺れることで、まるで光の粒を弾いているかのように美しく煌めく。
「ふぅ……」
「キュゥ?」
疲れを吐き出すように軽く息を吐くと、休憩と思ったのか、帽子を持ち上げ、その隙間から白イタチが頭を出した。
「もうちっとで着くからな~」
「キュゥッ!」
声をかけてやると帽子の中に頭を引っ込めて大人しくなる。
こいつはキュウ
俺の八歳の頃からの相棒だ。
軽く十年は一緒に過ごしている。
そんなことを思い返していると、急に帽子の中からクルル……という音が聞こえてきた。
「ん? キュウ、腹減ったのか?」
「キュッ」
仕方ねえな、と言いながら左のポケットから小さな皮の袋を取り出し、茶色い豆のような物を数粒手の平に乗せ、詠唱を始める。
「ふぅ……火の精霊よ、今こそ灯火の欠片をこの手に貸し与えん【ヒート】」
手の平を熱くする【ヒート】で、キュウの好物のカヒ豆を香ばしい匂いがするまで焼いていると、帽子から抜け出したキュウは腕に乗って焼き終わりを待たずに食べ始めた。
「おいおい……」
「キュ?」
少しくらい待てよと言おうとするとキュウはこっちを見たまま首を傾げる。
ちなみにカヒ豆は既に一粒食べ終わっており、残りは三粒だ。
「……うん、こぼすなよ?」
「キュッ!」
他愛のないやり取り
だがこういうやり取りのおかけで長旅でも無事に終えることが出来る。
食べ終わるのを待ってから再び歩き出し、太陽が真上に来た頃
「お?」
漸く城壁が視界に入る。
「うし、着いたぞ……シルバニア王国だ」
「キュッ!」
「今回は当たりだといいな~」
果たしてこの国との出会いは一人の少年に何を与えるのか。
それはまだ誰にも分からない。
最初のコメントを投稿しよう!