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東雲の身に纏う黒装束のあちこちに見える染み。それも恐らく返り血の一部。自身の懐から綺麗な手拭いを取り出すと、老爺はそれを東雲に投げ渡した。
「またえぐい遣り口か。相変わらず容赦ないのぅ」
「仕方ないよ。あれの価値観には、僕も苛立ったから。ああ、思い出しただけでも腹が立つ……!!」
老爺から受け取った手拭いで強く握り締め、東雲は不愉快そうに顔を歪めた。
老爺は、感情を露にする東雲が珍しいとばかりに目をしばたたかせる。
深く追及すると、愚痴にまで発展しそうなのでそれ以上は聞かない事にした。
「まぁ、何はともあれご苦労だった。早よ、湯浴みして休むといい。夜が明けたら、奴のとこに向かうからの」
「げっ。酒集りに行くの?」
「勿論じゃ。儂を誰だと思うておる」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる老爺に、東雲は敢えて何も答えない。
クルリと向きを変え、着替えを取りに行こうと反対側の座敷へと向かった。
バタバタと足音が去っていくのを見届け、老爺は畳へ腰掛ける。そして、懐から先日届いた密書をゆっくりと取り出した。
「……佐伯又三郎、か。何を為出したかは知らんが、あれに殺されるとは運が悪いの」
密書を握り潰すと、そのまま火に焼べる。それが灰になっていく様を見て、老爺は口端を緩やかに上げた。
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