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東雲は着替えを手にし、湯殿に来ていた。
仕事着である黒装束を脱ぎ捨て、頭上に付けていた面も剥ぎ取る。露になる身体と異質な髪色。
肩に掛かる長い髪をひと摘みして、髪を切ろうかと思案するが、老爺の泣き叫ぶ姿が脳裏に過る。
バッサリ切れば身体も軽くなり、今よりも格段に動きやすくなるだろう。だが、老爺は東雲が髪を切る事を酷く嫌がっていた。
「あーあー、髪は女の命って、誰が決めたんだろうねぇ……」
一息吐いて、胸元に巻いていたサラシを解いていく。そこには女性特有の膨らみがあった。
――そう、東雲は歴とした女性である。だというのに、中性的な顔立ちや普段から男装している事により、大半の知り合いからは男だと思われていた。
東雲が女だと知るのは、指で数える程しかいない。東雲の出自と、種族が関係している所為なのだが。
漆黒の瞳に関わらず、髪は血のように赤い――。
湯を浴びれば、その髪色の存在感は更に増す。これは消そうとしても、消せない罪の色のようだと東雲は小さく自嘲を浮かべた。
「……あー、寒っ。早く入って寝ようっと」
そうひとりごちて、床に置いてある桶に手を伸ばす。風で冷えていた身体に湯はよく染みていった。
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