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何もない。
家族も、故郷も、全て。
焼き払われ、この地上から消え失せた。
残されたのはこの小さな惨めな命ただ一つ。
汚泥を啜ってでも、生き残ってやると息巻いたものの
天は、自分を生かすつもりはないらしい。
「童、名を何という。何故、俺を襲った」
奇天烈な着物を着た武家の青年に刀を突き付けられ、絶体絶命の状況に陥っている。
腹を空かした極限の状態で、通り掛かった人に飛び掛かった様がこれだ。運が悪過ぎるとしか言い様がない。
「おい」
殺すなら、殺せばいい。
間違って生き残ってしまった自分など、この世で必要とされないだろうから。
「おい、答えろ!」
「いだぁッ!!?」
突き付けられていた刀が離れ、地面へと頭を叩きつけられる。
鼻が折れたかもしれない。ジンと痛む鼻を不快に感じながら起き上がろうとするが、それは青年の家来に遮られた。
どうやら、地面とまだ接吻してなければいけないらしい。
厄日。今日は厄日決定だ。
「何だ、口が利けるんじゃないか。もう一度聞くぞ。小僧、名を何という」
ニヤリと口端を吊り上げて、自分を見下ろす青年を見据え小さく息を吐いた。
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