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青年を見上げていれば、不機嫌そうな息が漏れる。また刀を向けられるな、と身構えれば、真横に真剣が降ってきた。
「二度も同じ事を言わせるな。貴様は、一体何が出来る?」
「……得意なものは何もないよ。敢えてあげるとすれば、気配消しが上手いのと、薬の調合ぐらい」
刀に怯える事なく、へらりと作り笑いを浮かべ答えれば青年は満足そうに目を細めた。
「――上等だ。扱き甲斐がある」
「へ?」
顔を上げようとすれば、再び沈められた。青年の片足が頭上に乗っており、非常に重い。
視界が遮られたお陰で、声と音でしか状況が分からない状態だ。周りの雑音と青年の声しか耳に届かない。
「これは良い拾い物をした。勝三郎」
「――は」
「連れて行くぞ」
ザワリと更に周囲が騒ついた。
そりゃそうだと呆れた顔をしていれば、小柄な体格の男が声を上げる。
「信長様! 得体の知れぬ者を連れ帰るなど……!!」
「黙れ、異論は聞かん。俺が気に入ったから連れて行く。良いな?」
有無を言わせない言葉に周囲の者は、黙って従うしかない。口に出せない不満は、全て自分を見る視線に注がれているようだ。
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