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情報は命だと教えられた気がするが、今の自分にとって腹を満たす事が一番の目的である。
市井の話や出来事など、興味は無かった。
「あの方は、尾張国主であり、那古野城城主であらせられる織田上総介信長様だ」
「ふーん……」
顔を左に向け、先を走る信長と言われる青年を見つめ頷きを返す。
城の殿様だと言われても何も感じる事はない。名と身分を知れたと思うだけだ。
青年の正体よりも土地の名前に食い付いてしまう。
「……此処、尾張だったんだ。知らない間に遠くまで来てたんだなぁ」
「……」
呆れたような、何とも言えない視線が自分へ向けられるが、無視だ。無視。国主よりも今後の生活が何よりも大事に決まっている。
「で? これから僕はどうなるの?」
「……さあな」
「殺されたりはしないよねぇ?」
「あの方次第だろうな」
「えぇぇ?」
それは嫌だ、と声を上げるが青年から言葉が返ってくる事はなく、そのまま会話が途切れた。
対象がいなければ口を開く事もない。小さく息を吐いて、馬の蹄の音を聞きながら目を閉じる。
これが、全ての始まり。
長い長い、自分の歴史と
一族の居場所を得る旅の
始まりだったんだ――――
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