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「御免。それ、今日の仕事に使っちゃった」
「なぬぅぅぅぅ!!? あれを、最高級の酒と知っての所業かっ!!」
「仕方ないだろ。相手を油断させなきゃならなかったんだから」
悪怯れる事なく、しれっと言ってのける東雲に老爺はわなわなと拳を震わせる。
只の安酒ならまだしも、年末に飲もうと隠し込んでいた純米酒を奪われるとは。
何度声を上げても、不満は収まらない。恐らく、一口も飲んでいなかった所為もあるだろう。
そんな老爺を一瞥し、東雲は首に巻いていた布を解いていく。
「……そんなに不満なら、桂の旦那に頼みなよ。報酬代わりにくれるかもよ」
――桂。その名に老爺は動きを止め、不快そうに眉を下げた。
「……ああ、そうか。今宵の仕事は奴からだったのぅ」
「そう、命に従わない、面倒ばかりする奴を消してほしい――ってね」
東雲の首から落ちた、布には夥(オビタダ)しい血が付着していた。
老爺の視線が険しくなったのに気付き、東雲は小さく手を振る。
「あ、僕のじゃないよ。ちょっと派手に壊してきたから、汚れちゃったんだよね」
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