早起きは三文の徳とは限らない

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◇◆◇◆ 桜を眺めながら、俺は校舎に続く上り坂を早足で駆け上がっていく。 いつもより早く起きてしまい時間的にはまだまだ余裕があるのだが、のんびりするのはあまり性に合ってないので、「ならいっそ早く行って体育館で体を動かそう」と俺の脳内会議で決まり、こうして学校に向かったのだ。 「水無月、今日は早いな」 かれこれ考えているうちに学校の玄関前にたどり着き、そこでドスの利いた声をかけられる。声のした方を見ると、プロレスラーに引けを取らない体格で周囲を威圧する空気を醸し出した短髪の男がいた。 「おはようございますMr.鉄人。今の時間体育館使えますか?」  軽く頭を下げて、挨拶をする。この男は意外にも教師である西村教諭、生活指導の先生であるからあまり会いたくない先生の一人だ。 「誰がMr.鉄人だ、馬鹿者。西村先生と呼べ」 「いやいや、『今年度の新入生が選ぶ!一番怖そうな先生ランキング』の№1という結果と先生の趣味を考慮したらこれが一番しっくりきますのでそう呼びました」 「ふざけたことを言うな、先生をちゃんと敬え」 「敬った結果がこれです」  鉄人は少しの間俺を睨み付けるが俺のすまし顔を見て、諦めたのか溜息を吐いた。  先生、溜息吐くと幸せが逃げますよ? 「……まぁいい、ほら受け取れ」 鉄人は箱から封筒を取り出して俺に渡す。宛て名のところには『水無月唯斗(みなづきゆいと)』と書かれていた。 「あ、どうも」  簡単に礼を言いながら受け取る。 「体育館は空いてるが、HRまでには戻れよ」 「わかりました、ありがとうございます」  そう言葉を交わして校舎の中に入って行く。はてさて、俺はどのクラスだったかな?  校舎を通って体育館に向かいながら俺は封筒から一枚の紙を取り出した。 『水無月唯斗……Eクラス』 「……微妙……」 こうして俺の学園生活が始まった。
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