585人が本棚に入れています
本棚に追加
【1人目/5人】
「はぁっ……はあっ……」
彼は今、駅前の商店街通りを疾走している。
なぜか。
その理由は成り行き上によるものだ。
彼の職業はプロサッカー選手
─────だった。
お世辞にも勉強に向いているとは言えなかった彼だが、しかし運動にはそれなりの自信を持っていた。
スポーツをやらせれば、それが始めてだったとしても、見よう見まねでそれなりにこなせるセンスを持っていたし、続けたら続けたでコツを掴むのがうまかった。
そんな彼が中学で選んだ部活は、柔道部だった。
入部当初から才能を見込まれて、2年でエース。3年の時は、個人戦でトキオエリア優勝を勝ち取った事もある。
対して団体戦では、チームメイトの成績が振るわず万年1回戦敗退。
しかし彼は団体戦に惹かれた。
正確には"仲間と一緒に目標に向かう"事に。
「汗臭いし、恰好悪いんだよね」
照れ隠しで言った一言は、しかし彼の性格を知る仲間は嘘と知りつつ理解してくれた。
そういった経緯を経て、彼は個人戦のある柔道を捨てて、チームで戦うサッカーへと転向した。
髪型を坊主頭からツンツン頭にし始めたのはこの頃だ。
浅黒い肌に、あちこちのパーツがデカい顔。良し悪しで言えばイケメンの類に入る彼の顔は、しかし第一印象で言われるのはいつも「顔が濃い」である。
そんなコンプレックスを打破しようとした渾身の髪型は、今では彼のトレードマークになっている。
最初のコメントを投稿しよう!