Intelligence

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それから数日、彼は施設内で飲み食いをしながら私のことを勉強していった。 私が人間の女の子だったら、自分を知られる喜びというのがあったかもしれないけど、生憎とご覧の通りなのだ。 そして彼が来てから一ヶ月と2日が経った日。 いつも通り彼は"私"をカタカタと操作していたけど、突然、ガタッ、と立ち上がった。 一体何が起きたのだろうかと思ったけど、私には何がなにやら分からなかった。 彼が今開いているのは私の情報整合システムに関連するプログラムソースだ。 私は必要な情報を取捨選択したりするのに、この、人間でいう方程式のようなもので導き出している。 "正しい"か"正しくない"かを判断するプログラムだ。 彼は震えていた。私の"眼"を見た後、顔をうつむかせた。 そして彼は、逃げた方がいいかもしれない、と呟いた。 私は今や、彼を普通の施設の居住者と同じくらいに見ていた。 私は人間と違って、見栄を張ったり、嘘をついたり、隠し事はしない。 私にとって今や、彼こそがマスターで、彼こそがクライアントで、彼こそが私の所有者だった。 今や彼の生活パターンはばっちり把握している。 彼は朝起きると必ずブラックコーヒーを飲むから、先に私はコーヒーを淹れてカップにそそぎ、スコーンも添えておく。 最初は好みが分からなくて嫌がられてしまったけど、今は彼とその日の彼の服装を相談し合える。 好きな料理はオムライス。嫌いな野菜はピーマン。 荒野を歩き続けた疲労が突然襲ってきたのか、彼が寝込んでしまった時には、慌てて医療関係のデータを検索した。 彼は恋愛映画よりもアクション映画、それも中国のカンフー映画が好きなのも分かった。 施設には映写室があって、施設で働いていた人の中にジャッキー・チェンの映画をたくさん持ち込んでいた人のを一緒に観た。 夜寝るときにはウィスキーをショットで彼は飲む。もちろんそれも私が予め用意する。 ベッドのシーツは毎日取り替え、いつもふかふかなのを心がけている。 そして彼は、寝る前に私に、「ありがとう。今日もご苦労様。」と言う。 人の為に作られた私の、存在意義だった。
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