第五章

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電話を終えて、イライラしながら、居間に戻ると、ソファにはゆき枝しかいなかった。 「あれ、梨花さんは?」 その声に振り返ったゆき枝は、 「あぁ、理子ちゃんがさっき目覚めたから、部屋に行ってる」 その言葉に俺は返事もせずに慌てて部屋を飛び出した。一気に階段をかけ上がる。 ちょうど廊下の真ん中あたりの理子の部屋のドアが、半分開いたままの状態になっていた。 そっと近づくと、ボソボソと梨花さんと理子の声。何を言っているのかは聞こえない。 俺は右手でそっと開きかけの扉にノックする。 コンコン 「悠です。理子が起きたって聞いて……」 ホントはすぐにでも目の前の扉を開きたい衝動に駆られたが、ここは我慢。理子は病人だし、一応女の子。入るには本人の許可が必要でーー。さっきは眠っていたから許された。 「ちょっと待ってね」 梨花さんの返答の後、ボソボソと理子と話す声が聞こえた。 もし断られたらーー? 立ち直れないな……。なんて思いつつ、数分後。 扉が中から開かれ、梨花さんが出てきた。 「入っていいそうよ。私は下にいるから何かあったら教えてね」そう言って小さく笑みを浮かべた梨花さん。 俺は頷き階段を降りる梨花さんの背中を見送った。 正直ホッとした。入ることを許されたことに。ゆっくりと扉に向き直る。 理子に会うのはーー、俺のアパートが最後だった。 ほんの少し、緊張する。大きく息を吸って、 「理子、入るよ」 そう声をかけて、俺は足を踏み入れた。
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