第五章

110/218
前へ
/974ページ
次へ
「少し、落ち着こっか」今度は優しく声をかけ、ベッドの上理子の正面に座る。 「大丈夫か?」 「……」理子の瞳が揺れている。 「俺の言う意味、わかるか?」理子の顔を覗き込みながら、優しく問いかけると、コク、コクと二回頷いた。 それを確認し、俺は理子を瞳の中に閉じ込める。 「いいか、よく聞いて。俺は、今日はここには泊まらない……。こんな時になんなんだけど、どうしても行かなきゃいけない所がある。でも、約束の時間にはまだだいぶ時間があるし、それまでは一緒にいられる。もちろん、理子がいていい、というならば、だけど……」 ジッと俺の話を黙って聞いていた理子。 「……いて、ほしい」やっと聞き取れるくらいの小さな声で呟やいた。 「わかった」ポンポンと頭を数回撫でてやる 本心をいえば、このまま朝まで一緒にいてやりたかった――、がそれは出来ない。 なぜなら、さっき大野の電話を切った後。俺は隆からのメールに気が付いたんだ。そこには、亜美と連絡がついたとあった。 『今夜23時、BARにて』 このチャンスを、俺は逃すわけにはいかない。 どんなに後ろ髪をひかれても、理子のために俺は行かないと――。
/974ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7400人が本棚に入れています
本棚に追加