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黙って俺に撫でられている理子が、俯き加減だった視線をゆっくりと上げる。
「悠ちゃん、理子ね……。悠ちゃんがここにいられる時間のギリギリまででいいから、一緒にいたいな……」
その言葉は衝撃だった。
心臓が跳ねたのを本当に感じたんだ。
チラッとだけ自分の胸を確認し、
うん、大丈夫、ちゃんと動いてる、ようだ……。
理子へと視線を戻し、えっと、なんだって?
頭の中でリピートする。
イ ッ シ ョ ニ イ タ イ ナ
誰だ、そんな言葉を理子に教えた奴は――。
マジかよ、嘘だろ、なんだよ、それ……。
理子のくせに、理子のくせに、理子のくせにっ
そんな発言でこの俺を惑わすなんて――、「悠ちゃん?」
「わ」
「どうかしたの?」我に返った。
今度は理子の方が俺をまじまじと覗き込んでいた、それもかなりの至近距離で。
驚愕する俺の様子には、まったくと言っていいほど疎い理子。
「どうしたの?」と、普通に問いかけられる。
「どうしたのって…」
どうしたのって、何だった?、何だった? 何だった――
「あ、明日はバイトだ」聞かれたことをようやく思い出した。
「え?」キョトンとする理子に
「だから明日はバイトだ。お前が聞いたんだろう。それと俺のバイト先のカフェは若い女性の客層がターゲットだから、俺にはよくわかんないけど、たぶん女子が喜ぶような内装とか、メニューとかになってるはずだから……、理子も店に食べに来たら気にいると思うよ。それと、BARの方だけど、さすがに未成年は連れてはいけないな。でも、まぁ店長は俺のおじさんだし、どうしても見たいなら店が開く前の昼間とか、頼んでみてもいいけど――。約束はできないからあまり期待はするなよ?」
「うん、嬉しい」
理子の瞳が期待にキラキラと輝いたのが、俺をも嬉しくさせた。
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