第五章

116/218
前へ
/974ページ
次へ
あの手紙はどうしたんだ? そう言おうとして、理子が先に何か言った。 「え?」声が小さくてよく聞き取れなった。 俺は理子の声に耳を傾け聞きとろうとした。 「ポケットに……」 「ポケット?」 「うん、気が付いたらポケットに入ってたの」 「……」高橋が入れたってことか? しばしの沈黙……。 「悠ちゃん」おずおずと理子が俺を呼ぶ。 「何?」視線を向けると 「理子ね、今日……駅で電車に乗る直前に誰かとぶつかったの。一瞬だったから顔は見なかったし、相手も立ち止まらずに歩いて行ってしまったけれどーー、男の人だった」 「男?」ソイツが高橋だったのか? 可能性はある……。 「その時は気づかなかったけれど、電車の中でポケットに覚えのない手紙があるのに気が付いて……、どうしても気になって大野君がトイレに行った隙に、こっそり中を見ちゃったの」 「……」 「読んで頭が真っ白になったーー、悠ちゃん理子も、それを書いたのは高橋君だと思う……」 理子の声はかすかに震えていた。
/974ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7400人が本棚に入れています
本棚に追加