第五章

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「俺、行くわ」唐突に立ち上った俺に、理子は唖然としていた。 「え………」かすかに聞こえた理子の驚きの声。どうしてと言わんばかりの視線に俺は気づかない。 もう俺の頭の中は、今すぐに亜美に連絡をとらなければ、とただそれだけ。 壁の時計に目をやり無意識に舌打ちする。約束の23時までまだ時間があるけれど、そんなの待てそうにない。 何が何でも今すぐ連絡をとって、弟に会わせてもらう。絶対にだ! 亜美は間違いなくブチ切れるだろうが、そんな事は知ったこっちゃないっ。 プライドの高い亜美の事だ。機嫌を損ね怒らせたら、この話もなくなってしまうかも知れないが――、俺には確信があった。 アイツは断らない。文句は言われるかもしれないが、絶対に断らない。 根拠のない感だけれど、その気持ちは俺を支えてくれた。 まぁ、間違いなく取引という形にはなるだろうが……。 ふと隆の言葉を思い出す。 「この策は、お前自身にリスクがある」  わかってる。でも、それでもやるだけの価値はあるはずだ。 「理子っ」 「えっ?」突然名前を呼んだからか、理子はビクンと肩を震わせた。 「明日は学校休めよ」 「えっ?」パチパチと瞬きを繰り返す。 「梨花さんには俺から話をしておく。明日は一日、家から一歩も出るなっ」 「一歩も?」戸惑う理子に、 「そう、俺と約束できるか?」 「――わかった」今だに不安そうではあったけれど、理子は頷いた。
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