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悠side
理子が泣いていた――。他の事に気を取られていて、理子が泣いていることに気づいていなかった。ハッと我に返りすぐ目の前にしゃがみ込む。
「どうした……」伸ばした右手で理子の頬にそっと触れる。
触れた瞬間、理子の瞼が閉じられて涙の筋が頬を伝う。
理子の涙が俺の手を濡らすんだ。
そしてそっと、理子の方から俺に手に頬を押し当ててきた。
ドクン、その仕草に不謹慎にも俺の心臓が大きく鼓動する。
「理子、どうした?」掠れた声の優しい問いかけに、ゆっくりと開かれる瞼。
そして、理子の白い両手が俺の方へと伸びてきて、俺の胸のあたりのシャツをギュっと握った。
そして、戸惑う俺の胸に額をそっと押し当ててくる。甘えるような仕草と見えなくなった理子の表情。
今、どんな顔をしてる?
「悠ちゃん、お願い」俯いたままの理子が小さな声で呟く。
「え……」
「あと10分……、ううん、あと5分。5分でいいからもう少しだけ、もう少しだけ一緒にいてほしい」
シャツを握る手に力がこめられて、嗚咽混じりの苦しげな理子の言葉は、俺を正面から貫いた。
もう何も考えられなかった。
気付いたらその手の中に抱きしめていた。理子の髪に顔を埋め、これ以上隙間がないくらいに引き寄せたその細い身体。
その柔らかい感触に、俺の頭は真っ白になる。
「ごめん、悪かった。まだいる、ここにいるよ」
「……いいの?」消えてしまいそうな理子の声。
「あぁ、理子が眠るまで傍にいる」
「本当?」
繰り返される問いかけに
「信用ねぇ~な~」と苦笑い。
抱きしめていた腕を緩め、ようやく顔をあげた理子の濡れた頬をグイッとぬぐう。
「ほら、横になって、手繋いでやるから……」
その言葉に理子が小さく笑ってくれた。
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