第五章

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悠side 理子が泣いていた――。他の事に気を取られていて、理子が泣いていることに気づいていなかった。ハッと我に返りすぐ目の前にしゃがみ込む。 「どうした……」伸ばした右手で理子の頬にそっと触れる。 触れた瞬間、理子の瞼が閉じられて涙の筋が頬を伝う。 理子の涙が俺の手を濡らすんだ。 そしてそっと、理子の方から俺に手に頬を押し当ててきた。 ドクン、その仕草に不謹慎にも俺の心臓が大きく鼓動する。 「理子、どうした?」掠れた声の優しい問いかけに、ゆっくりと開かれる瞼。 そして、理子の白い両手が俺の方へと伸びてきて、俺の胸のあたりのシャツをギュっと握った。 そして、戸惑う俺の胸に額をそっと押し当ててくる。甘えるような仕草と見えなくなった理子の表情。 今、どんな顔をしてる? 「悠ちゃん、お願い」俯いたままの理子が小さな声で呟く。 「え……」 「あと10分……、ううん、あと5分。5分でいいからもう少しだけ、もう少しだけ一緒にいてほしい」 シャツを握る手に力がこめられて、嗚咽混じりの苦しげな理子の言葉は、俺を正面から貫いた。 もう何も考えられなかった。 気付いたらその手の中に抱きしめていた。理子の髪に顔を埋め、これ以上隙間がないくらいに引き寄せたその細い身体。 その柔らかい感触に、俺の頭は真っ白になる。 「ごめん、悪かった。まだいる、ここにいるよ」 「……いいの?」消えてしまいそうな理子の声。 「あぁ、理子が眠るまで傍にいる」 「本当?」 繰り返される問いかけに 「信用ねぇ~な~」と苦笑い。 抱きしめていた腕を緩め、ようやく顔をあげた理子の濡れた頬をグイッとぬぐう。 「ほら、横になって、手繋いでやるから……」 その言葉に理子が小さく笑ってくれた。
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