第五章

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理子の手を握りながら、俺は亜美への連絡はあきらめた。 優先順位なんて考えられなくなった。 理子の傍にいたい。理子を泣かしてまでする事ではないと思ったから。 今夜23時になれば亜美には会える。それまでは理子の傍に――。 理子が望むことをしてやりたい。 理子が眠りにつくまで少し話をした。 理子が不安に思っていることを、初めて自分から吐露してくれた。 この期に及んで、理子は高橋に自分でも気が付かないうちに、何かひどい事をしてしまったのかもしれない……と自分を責めていて。 お前は何も悪くないのに、苦しめられているのはお前の方なのに――、理子、お前はどこまでお人よしなんだ――。 1人にするのが本当に心配だよ。 1人、か……。 眠りに落ちた理子。 俺はその寝顔をすぐ近くで見つめながら、そんな事を考えていた。 額にかかった髪をそっとはらってやる。 安心して眠れたのか、理子に触れても気が付かない。落ち着いた寝息が聞こえてくる。 「理子……、俺が、俺が全部、全部終わらせてやるからな――。大丈夫、もう何も心配することはない……。俺が守ってやるからな――」 そう囁き、ゆっくりと顔を近付けた……。
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