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時刻は23時5分前。
俺はこの前と同じカウンターの席に座って、亜美を待っていた。バイトでもないのに現れた俺に、マスターは不思議そうな視線をよこしてきたけれど、何も問われることはなかった。
グラスの中の氷が解けかけた頃、カツカツとハイヒールの音。
23時30分過ぎ、ようやく亜美は現れた。
「もう、いないかと思ったのに――、まだいたんだ」
遅れて悪いなんて、これっぽっちも思っていない。その高飛車の声色に、遅刻はワザとだなと俺は確信する。腹が立つがそこは堪え、亜美の背後に視線を送る――、が人の気配はない。
「弟は?」いねぇじゃねぇーかっ!
喉まででかかった言葉。亜美は気にもせず隣に腰掛ける。
「マスター、お勧めお願い」この空気に不釣り合いな甘えた声を出す。
苛立ち舌打ちしそうになるのもなんとか堪え、
「亜美、弟は?」もう一度同じセリフを吐いた。
「今日集会」
「はっ?」
集会? 集会って……、あのいわゆるあの集会? マジかよ。裏のトップって本当なんだ……。
どこか現実味のなかった隆の話が、急にリアルに思えてくる。ツーッと背中を冷や汗が伝ったがーー、ここで俺もひるむわけにはいかない。
「今日、弟に会わせてほしいってお願いしたはずだけど?」
俺の文句に対して、カウンターに頬杖をつき優雅にこちらをふり仰ぐ亜美。
「聞いてるわよ」
「なら、なんで来ない」
「私は来るとはいってない。でも陸に話は伝えてある」
「……」陸って言うのか……
「まずは私が話を聞くわっ、そして陸に電話をかける」
「……」
「何か問題が?」
「……今日中に、彼に話が伝わるという保証は?」フッと、鼻で笑う亜美。
「なんだそんなこと? ぬかりないわっ、私を誰だと思っているの? 今日、ケンカの最中で死にそうになってても私の電話には出てっ!ってちゃんと言ってあるわ」
弟とはいえ、裏社会のトップ。その相手にめちゃめちゃ強気な発言。
姉の亜美を弟が溺愛しているという情報は、嘘ではないということか……。
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