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「……変な奴だな。敵なのに」
やれやれと溜息をつくと、梓はただ笑って俺が作った和菓子を「美味しい」と食べる。
本当に変だ。しかし、悪いのは彼女ではないと打ち解けてからというもの、彼女・梓への想いが変わっていくのを感じた。
彼女はあの頃のままで、必死に前を向くために明るく振る舞っていたのだ。
「私が、源氏を支えなくちゃいけないから」
意志の強い瞳に、俺は昔会った少女が目の前にいる彼女だと確信した。
その瞬間、俺は自分がとても弱い人間だと気付いた。勝手な都合で感情を押し付け、理解しようと努力しなかった。それは滑稽に思えた。恥ずかしい。
「……ごめん、な」
悔しくもあり、悲痛に顔が歪む。梓はきっと、傷付いていたのだ。謝っても謝りきれない。
「私も、強くないよ。弱いからこそ、自分を守るために自分を正当化しているんだから。傷付いても、私が父様母様を亡くした時の痛みに比べれば……辛くても怖くなんかない」
そう言って微笑を浮かべる梓は可愛いというより凛としていて、綺麗だった。
初めて会った時に見た横顔と重なり、どくん、と胸が高鳴っていることに気付く。
それが恋なのだと知るのはもう少し後の話だ。
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