◆赤手空拳

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  「何よ、いきなり」   「やっぱりだめだよ、こんなの。 さびしいなら、ちゃんとお母さんに会いたいって伝えなきゃ」    彼は反論する余地を与えぬよう、そらに詰め寄った。   「だから、だめなんだってば。 おかーちゃんは忙しいの」   「じゃあ、僕が勝ったら、お父さんと勝負してもらう! そんで、君が勝ったら、お母さんに電話してもらうってことで、いいでしょ?」   「でっ……でもぉ……」    だいちの強弁にたじろぐそら。 おばあさんに聞いた通り、勝ち負けをからめれば話に乗ってきそうな雰囲気だった。    もうひと押しと、だいちはクマに目配せをする。   「ん? ああ、そりゃあ面白そうだな。 いいじゃないか、そら。 おとーちゃんが勝ったら、何してくれる?」   「だいち君がわたしに勝ってからでしょ!」    クマが愉快げにけしかけると、ほとんど承知した風な口前でそらが言い返した。 だいちがしてやったりと口角を軽くつり上げると、それを目ざとく見つけてそらが複雑げな顔をした。    こうして、勝負をすることとなった両者は、子供用のボディプロテクターを着装して道場の中央で向かい合う。 いつの間にか隅のほうでおばあさんが正座していて、ただ一人の観戦客となっていた。    審判はクマだ。   「一撃でもそらに当てることができたら、だいち君の勝ちにしよう。 そらは五分間、避け続けることができれば、勝ちだ。 いいな?」   「いいよ、それで」   「う……うん」    クマから特別ルールの説明がなされると、不機嫌そうなそら、自信のわかないだいちの順でうなずいた。    蹲踞(ソンキョ)、礼をして、いよいよ試合開始だ。   「はじめっ!」    クマのかけ声で、だいちは気合いをかけてそらへ突っ込む。   「や────!」    打った右拳の突きは、受けて流して打ち返すの拍子で反撃された。 まるで教本通りの正拳突きを胴に食らったとしても、プロテクターのおかげでそれほど痛くはない。    続けて打った左拳の突きも、同じようにさばかれた。  
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