37人が本棚に入れています
本棚に追加
「何よ、いきなり」
「やっぱりだめだよ、こんなの。
さびしいなら、ちゃんとお母さんに会いたいって伝えなきゃ」
彼は反論する余地を与えぬよう、そらに詰め寄った。
「だから、だめなんだってば。
おかーちゃんは忙しいの」
「じゃあ、僕が勝ったら、お父さんと勝負してもらう!
そんで、君が勝ったら、お母さんに電話してもらうってことで、いいでしょ?」
「でっ……でもぉ……」
だいちの強弁にたじろぐそら。
おばあさんに聞いた通り、勝ち負けをからめれば話に乗ってきそうな雰囲気だった。
もうひと押しと、だいちはクマに目配せをする。
「ん?
ああ、そりゃあ面白そうだな。
いいじゃないか、そら。
おとーちゃんが勝ったら、何してくれる?」
「だいち君がわたしに勝ってからでしょ!」
クマが愉快げにけしかけると、ほとんど承知した風な口前でそらが言い返した。
だいちがしてやったりと口角を軽くつり上げると、それを目ざとく見つけてそらが複雑げな顔をした。
こうして、勝負をすることとなった両者は、子供用のボディプロテクターを着装して道場の中央で向かい合う。
いつの間にか隅のほうでおばあさんが正座していて、ただ一人の観戦客となっていた。
審判はクマだ。
「一撃でもそらに当てることができたら、だいち君の勝ちにしよう。
そらは五分間、避け続けることができれば、勝ちだ。
いいな?」
「いいよ、それで」
「う……うん」
クマから特別ルールの説明がなされると、不機嫌そうなそら、自信のわかないだいちの順でうなずいた。
蹲踞(ソンキョ)、礼をして、いよいよ試合開始だ。
「はじめっ!」
クマのかけ声で、だいちは気合いをかけてそらへ突っ込む。
「や────!」
打った右拳の突きは、受けて流して打ち返すの拍子で反撃された。
まるで教本通りの正拳突きを胴に食らったとしても、プロテクターのおかげでそれほど痛くはない。
続けて打った左拳の突きも、同じようにさばかれた。
最初のコメントを投稿しよう!