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その日、だいちはいつもの下校路とは違う道を択んでしまった。
というのも、クラスメイトの三人に半ば強引に連れられてきたためである。
小五の男子にありがちな、暇にあかした好奇心を動機として、学校近くの化け物屋敷と仲間内で称される、この家屋まで。
「あかて流なんとかほう道場……ここだぜ!」
車二台分の駐車スペースの手前から、立派な門構えにかかげられた“赤手流拳法道場”という看板を見つけて、先頭ののっぽが言った。
「ウワサでは“ウーマ”が出るってコトですよ」
その後ろでめがねが受け合って、さらに後ろのだいちの隣のちびが、小刻みにうなずいた。
そもそも、この三人とはあまり親しい仲というわけでもなかったが、ただの人数集めとその場の勢いでいや応なしに付き合わされたのだった。
肩まで伸びた髪、黒目がちで幼いままの顔立ちに、なよなよしい細作りの体形も手伝って、だいちの容姿は女子と見間違えるほど。
それゆえに、押しに押されれば弱く、押すほうも押しやすかったというわけだ。
何にせよ、彼は早く帰りたかった。
秋も半分過ぎて日が短くなってきたのだし、晴れ晴れとした青空も適度に涼しい風も、ランドセルの重みに耐えながらの下校時には健康的な気力をそぐ要因でしかない。
何十メートルも続く高い築地塀(ツイジベイ)を見上げて、だいちは知らずに小さなため息をこぼしていた。
「何?
あんたたち」
赤いランドセルを背負った女子が、道の反対側からやって来て声をかけた。
三人が壁になってよくは見えなかったが、だいちはその声をどこかで聞いた気がした。
「お前、ここのヤツか?
この家にお化けがいるって本当か?」
「お化けじゃありませんよ、ウーマですよ。
みかくにんせいぶ……」
のっぽが遠慮会釈もなく、むしろ敵意を含んで問いかけると、めがねが博学っぽく付けくわえた。
が、返ってきたのは答えではなく、蹴りだった。
「帰れ!」
「うわわぁっ!」
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