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「そらちゃんもこっち来なよ。
せんべいおいしいよ」
「いい。
わたしはあと3週間、ここでじっとおかーちゃんの帰りを待つ」
ただ、今はだいちの呼びかけに、空返事をよこすそらではあったが。
「あー、ところで、そら。
実はなー」
何かに気付いたように首を伸ばして庭のほうをうかがい、クマが子細ありげに切り出した。
「まあ、ぶっちゃけ、電話はしなかったんだが、ずっとメールはしてたんだ」
「…………」
もったいぶった父の言葉に、せぐくまった少女の小さな肩がぴくりと反応した。
「そらがさみしがって、クマよりウサギがいいと言い出したよ、なんてメールを送っただけ……なんだけど、何だありゃ?」
彼の言葉が続いているうちに、だいちは庭の木の陰に、怪しげな人影を見つけた。
それはどうやら白ウサギの着ぐるみを着た何者かで、不審者めかしくちらちらと立ち木の向こうからこちらをうかがっている。
「はっ!」
そらの頭がひょこりと起き上がり、ウサギを見つける。
彼女はゆっくりそれを確かめるように凝視しつつ立ち上がり、一歩踏み出した。
全く、格闘家というものは、どうしてこうも素直になれないのだろう。
だいちは回り道の多いこの家族をまだ充分に理解しきれずにいながらも、素足で駆け出す少女の後ろ影を、ほがらかな笑顔でながめていたのだった。
「おかーちゃん!」
──おわり──
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