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短髪でいかにも活発そうな顔立ちをしたヤペテは、元気よく神官の前までやって来ると、息をはずませたまま手に持っていた物を差し出した。
受け取ってみれば、聖都印の封ろうがされた手紙だった。
「なんだあ?
なんだあ?
読んでみてけろ」
まだ難しい字を知らない彼が物めずらしそうに聞くので、神官はひとつ思い付いて、封を解かずに手紙のあて先を読むふりをして言った。
「ああ、これは……。
おやおや、ふむふむ。
……そんな!」
「なんだべ!?
なんなんだべ!?」
ヤペテの驚く姿が意想外におかしくて、悪乗りと知りながらも神官はことさら大層らしく演技をして続ける。
「ああ何ということでしょう。
北のほうの村で、宝石に魔力が宿り、その宝石がとても恐ろしい魔獣となって人々を襲うという事件が起こったようです。
この村でも同じことが起こらないとも限りません。
わたくしが魔力の宿ったものがないか見てあげますから、ヤペテ、あなたのお家にある宝石を全部持ってきなさい」
「うひゃあ!
そりゃあ大変だべ!
ちょっくら行ってくっから待っててけろ!」
当然といえば当然なのだが、言ったそばからヤペテがもう駆け出そうとするものだから、神官はあわてて引き止めなければならなかった。
「お待ちなさい、ヤペテ。
今の話はウソです。
大ウソです。
信じてしまいましたか?」
「いっ!?
ウソだべか?
なあんだ、びっくらこいただぁ」
「だましてしまってごめんなさい。
でも、世の中にはこうして、他人の物をだまし取ろうとする悪い者が少なくないのです。
実になげかわしいことですが……。
ですから、あまりにおかしいと感じたことは、なるべく疑ってかからねばなりません。
分かりましたか?」
「分かった、これからは気を付けんべ。
だけんども、神官さまが言うこたぁ、何でも信じっちまうだよ、あはは!」
彼の言を聞いていて、だましていたのが自分で心底ほっとする神官であった。
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