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二人は笑い合って村への道を一緒に歩き始めた。
しばらく行くと、切り畑が見えてのら仕事に精を出す親子がある。
「兄ちゃん!」
ヤペテが言って駆け出すと、すきを手に土を掘り起こしていた彼の兄、セムがこちらを見やった。
背丈こそ差はあるものの、顔立ちも体格もよく似た兄弟だ。
そのかたわらに二人の父がいて、今度は神官が声をかける。
「ノアさん、手紙を受け取りました、ありがとう。
精が出ますね」
「こりゃどうも神官さま、おかえりですか?」
「はい、もうそろそろなくなる頃だろうと思いまして、これ、腰痛に効く薬草です。
すりつぶしておきますので、またうちまで取りに来て下さいね」
「あああ、ありがてぇこってす。
もうすぐ種まきの季節だで、助かりますだよ」
編みかごから深緑色のみずみずしい葉の束をのぞかせると、農具を杖代わりにして農夫は腰を気づかいながら片手を持ち上げて謝意を示した。
ヤペテがくわわって農作業を再開した彼ら一家と別れ、神官はまた自分の在所を目指して歩き出す。
レンガ造りの民家が間近くなり、にわかに人音が聞こえてくる。
簡素な家々は地盤の確かな場所を択んで建てられているので、まばらになった分、村としては広い。
それほどにぎわしい所ではなかったが、小規模ながら近くに温泉がわいていて、湯浴みが村人たちのささやかな楽しみのひとつとなっていた。
一軒目の家の軒下で腰かけに腰を据えて俗談に花を咲かせていた三人の老婆がこちらを見つけて声をかけてきた。
「おがえんなせ神官さま」
「目当てのもんば取れましただか?」
「ああ、こりゃあ大量だべさ!」
明るい色合いの木綿織りを着込んだしわ深い腰折れ達は、皆若盛りのように元気に笑う。
「ばば様方におみやげがありますよ。
またこれで山菜汁をごちそうして下さいね」
「おんやまあ、珍しいきのこでねぇだか。
がけのほうまで行きなさったんか」
「難儀じゃったろうに、ありがたやありがたや」
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