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神官がかごの底から葉物や土付きのきのこを大手にふたつかみ、かたわらの小卓に置いて言うと、まるで神仏にでもおがむみたいに三人は感謝の言葉を彼に浴びせかけた。
老婆たちの喜ぶ顔を見届けて、神官は村の中ほどにあるひときわ大きな建物を目指してまた歩き出す。
聖都によって建てられた白塗りの小聖堂。
それが、彼の職場であり、寝床であった。
姫垣を抜けて開け放ちの裏木戸をくぐると、入ってすぐの用部屋で一人の娘を見つける。
「おかえりなさい、神官さま」
「ただいま帰りました、マリアさん。
これ、もう葉を広げていたのですよ、春も近いですね」
「まあ、よい香りですね、香草茶にしていただくことにしましょう」
今年十五になる、同じく彼の教え子マリアは、ぬれ雑巾を手にそうじの最中であるらしかった。
神官がまた編みかごの中から香草を何枚か取り出して見せると、彼女は赤毛のおさげ髪を揺らしてやわらかな笑みを浮かべた。
小麦色の肌、山育ちには見えぬ整った目鼻立ちの細身の少女は、親がなく、小聖堂近くの小屋で一人暮らしをしていた。
教授が休みの日でも、こうして雑事を手伝いにきてくれるのだ。
「神官さま、お昼はどうされますか?」
「朝の残りのパンがありますので、今日はそれですませてしまいます」
「では、すぐに支度してまいりますね」
水の入った手おけを取り上げてマリアは、腰布を濡らさぬようにしずと歩いて隣の部屋へ向かった。
神官は執務机に編みかごを置き、イスに深く腰かける。
机上に丸まって寝ていた住みつきネコのミシェルが、まぶたを開かず大あくびをひとつして、再び白わた菓子のものまねを続けた。
思い出して長衣のふところから先ほどの手紙を取り出し、大聖堂をかたどった聖都の紋が印璽(シール)された封ろうを見つめる神官。
しばらく静かに考えごとをしていたが、やがて机のペーパーナイフでそれを開いた。
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