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「はい、よく読めましたね、今日はここまでにしましょう。
明日からわたくし、用事があって聖都へ出向きます。
なので、三日間、教授はお休みとします」
彼の言葉で、堂内に軽くどよめきが起こった。
事情を知らぬ者は一様に案じ顔であったが、マリアだけは決然とした面持ちを崩さないでいた。
「神官さま、三日も帰ってこねぇだか?」
ヤペテが困惑ぎみに聞いてきた。
「いってぇ、どうしたっていうだ?」
その兄のセムがすかさず言いつないだ。
次々と、子供たちが不安げに声を上げるので、神官はそれを制するのに少々労が要った。
「まあまあ皆さん、落ちついて下さい。
これは、大神官さまからお呼び出しがあったためです」
余計に動揺させまいと、ことさらおだやかな声音を作り成して続ける。
「まだそうと決まったわけではありません。
しかし、すでに五年、この村で神の教えを説いてきたわけですし、そういうこともあるという話なのですが……」
ここでひとつ息をととのえてから、彼は今度は丁寧に語りかけた。
「おそらく、わたくしも次の場所へ移ることになるでしょう……間もなく」
皆、誰も難しい顔になって固まった。
一人一人の面持ちを慈愛をもってながめてゆくうちに、やがてこちらの言わんとすることを理解したのであろう者から順々に訴えを始めた。
「そげなこと言っても、おら困るだよ……」
「オラたちだって、神官さまがおらんかったらこまるだ」
「行かねぇでけろ!
神官さま!」
口々に、師を引き止める言葉が飛び出したので、これでは反対に神官のほうが動揺してしまうというものだ。
「待って下さい、待って下さい。
わたくしがこの村を去っても、また新たな別の神官がやって来るでしょう、安心して下さい。
それに、まだそうと決まったわけでもありません。
明日、聖都に行ってみないことには……」
全く思ってもみなかった。
ただの派遣神官を、ここまで引き止めようとしてくれるとは。
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