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始め、ごう……と物すさまじい音がしたので、彼女が蹴り上げた足先に先頭の者が仕留められたのだとだいちは思ったが、どうやらそれはただ空を裂いただけで威嚇にとどめたということらしい。
それよりも、人壁のすき間から見えたものに、目がくぎ付けになる。
高々と天を突く右脚に、ひらりとひるがえるスカートと、そして……。
「わっ……!」
倒れてきた三人に巻きぞえを食って、だいちまで後ろへ倒れる。
拍子に塀の角の柱材から飛び出ていたささくれに半袖シャツの袖口が引っかかり、びりりと嫌な音が聞こえた。
「逃げろ!
パンツ丸見せ女だぁ!!」
なかなか起き上がれずにいるだいちのみを放って、三人は一散に来た道を逃げ出した。
こちらはあお向けになった亀か甲虫のように懸命に横へ転がりつつ、教科書ノートを詰めこんだランドセルを持ち上げようとするが、いっこうにうまくいかない。
「だ……だいち君?」
下の名前で呼ばれて、何とも情けない格好でそちらを見上げるだいち。
すでに足をおろしてスカートの乱れを直した彼女は、黒いまどかな瞳で彼を見て驚き顔になっていた。
金色の髪はとても珍しかったので、思い出すのに時間はかからなかった。
「せきてさん?」
彼女は赤手そら。
学校ではそれなりに有名だったが、クラス替えで別々になってから疎遠がちになり、こうして名を呼び交わすのもおよそ半年ぶりだった。
背丈はだいちと同じほど、ととのった目鼻立ち、首すじにかかる程度のさらさらのブロンドと雪のように白い肌は、母ゆずりだと聞いたことがある。
「あいつら、何?
あんなのと友達なの?」
言いつつ彼女はこちらに手を差し伸べた。
「ち……違うよ!
無理やり連れてこられたんだ……」
後ろめたさとうら恥ずかしさが合わさって、だいちは差し伸べられた手をつかむことができなかった。
ために、できるだけすばやく一度ランドセルから両腕を抜いて、立ち上がってからそれを背負い直す。
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