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右肩に目をやると、懸念していた通りシャツの袖口がかぎなりに大きく裂けてしまっていた。
「ああぁ……」
「やぶれちゃったの?
うわぁ……」
「どうしよう……」
「大丈夫、おばーちゃんだったら、なおしてくれる」
母の怒る顔が目に浮かんでだいちは大息をもらしたが、少女は自信に満ちた面持ちで提案した。
「ほんと……?」
不安をにじませて聞き返し、閉ざされた門の脇戸を開ける彼女についてゆく。
その子が、脇戸の敷居をまたいで入る時、こちらを振り向いて一言。
「ねぇ、だいち君。
……見た?」
「えっ?
何を……?」
質問の意図を理解しそこねてしまったが、とにかくあまりやわらかくない目つきで聞かれたので、知らぬ風をよそおうことに決めた。
「ん~ん、何でもない。
こっちだから……」
そうして、だいちは右の肩口を押さえつつ、屋敷の中へと入っていった。
母屋の居間に案内された彼は、ちゃぶ台に座ってお茶をすすっていた小柄なおばあさんを見つけた。
「こ……こんにちわ。
おじゃまします……」
「ただいま、おばーちゃん」
緊張ぎみにあいさつをすると、少女がそれに続いた。
おばあさんは年季が入って古色を帯びた白い道着を着けていて、何か武芸でもしている風体だった。
「はい、おかえり。
お友だちかい?」
彼女は湯飲みをそっと茶たくへ戻すと、まだしわの浅い温顔でほがらかに笑みかけて言った。
玉かんざしで作ったおだんごの髪は黒く、つやつやしいなでしこ肌の祖母というには若やかな、かわいらしく丸まっちいおばあさんだ。
「だいち君の服、ぬって、おばーちゃん。
ほら、上脱いで、ランドセルそこ置いといて」
「う……うん」
だいちは言われるままに背負っていたものを少女のものとともに部屋の隅に置き、上着を脱いで青い長袖のTシャツ姿になった。
脱いだものを彼女に手渡すと、またうながされるままちゃぶ台からわずかに距離をとってかしこまって正座した。
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