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お茶目なしぐさでごまかそうとしても、グリズリーの面魂は相当なもので、五年生のだいちとしては軽く泣き叫んでしまいそうだった。
そのクマが次には急に落ち込んで、両前足をだらりと下げてうなだれたので、忙しい人だなと感じてだいちは中の男性に少々人臭い印象を見出した。
「……はぁー。
だいち君……ちょっと、相談に乗ってくれないかなー……」
「……?」
彼が力無げに言ったので、何かとてつもない事情が想像されて、だいちは余計に心配になった。
二人はどちらからともなく帰路を歩き出す。
「実はねー、オレ今、娘に嫌われててねー。
そらとまともに口をきいたのも、昨日のあれが二週間ぶりだったんだよー……。
もっとも、前回は“トイレの戸、閉めてよ”だったんだけどねー。
ははは……はぁ。
そらの前でオレが“これ”を着ることになったきっかけは、ほんの一か月前さー……」
そうして、クマの打ち明け話が始まった。
かいつまんで聞いたところによると、うそかまことか、そらの家族、赤手家は、忍者の流れを組む拳法家だった。
一か月前、そらの父に仕事の依頼があったのは、同じく拳法家の妻が修行と所用をかねて遠くの地へ独り旅立とうという時であった。
以下、彼の回想だ。
「忍グマ?」
「さよう、もともと、私の旧友の忍者が相棒としていたクマなのだ」
赤手家の居間で、ちゃぶ台をはさんで座るのは、そらの父、懸河と、警視正となった彼の親友。
その親友も、もとは忍の者であり、警察では取り扱いきれぬ案件を、時にこうして懸河へ持ち込みに来るのだ。
「旧友は忍グマを任務として山中に伏せたまま、別の地で不慮の事故に遭い亡くなってしまった。
クマは主人の帰りを待ち、任された地を従順に守り続けておる。
このままではいずれ人に危害を加え、射殺されてしまいかねん。
そうなれば、クマにほどこした忍の技が事を好む者たちによって明るみとなり、こちらとしても色々と都合が悪いのだ。
懸河、頼む。
他の者が見つける前に彼を何とかしてやってくれ。
最悪、殺すことになっても構わん……」
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