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「悠~ご飯ですよ~!」
ドア越しから母の声が聞こえた。
「今行く!」
母の声に答えたその声は今までの悠とは思えない程の明るさと高さであった。
ベットから下りてドアを開ける前に悠はパチンと頬を叩いた。
親に会うのに気合いを入れる。
それは、少女の悲しき業であった。
階段をおりていくと夕食の香が鼻を掠めた。
何なのかは特定出来ないものの良い匂いだ。
「あ~、お腹すいたぁ。」
ダイニングキッチンに通ずる扉を開けながら悠は明るい声と笑顔で入っていった。
自室では低く唸るような声で呟き、死者の瞳をちらつかせていた悠と同一人物とは思えない。
目も耳も疑いたくなる程の変わり様だ。
確かに疲労の隈はまだ染み付いたままだったが、それを凌駕する笑顔と声。
まさに営業マン、否それですら足元に及ばない。
母の前で明るく振る舞う。
自室では死神と踊る。
それは少女には辛過ぎる現実と言う名の運命。
神は無能であるばかりか、有害だ。
こんな少女にこんな痛みを与えるのだ。
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