黒き大剣使い―セナ

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 この「ふくだひさとし」なる人物はその侵攻で倒れ、《寄生種子》に苗床にされてしまったのかもしれない。  俺は彼を地面に埋め、墓石代わりの土山を作り、彼の腰にあったすっかり錆びてしまった剣をそこに突き立てた。 「どうか、安らかに」  俺は《市町村防衛騎士団》の勇敢なる騎士「ふくだひさとし」殿に手を合わせ、今日の宿にと思っている街に向かって歩き出した。  街の外で野宿など危険極まりない。いつ《種子》に寝込みを襲われるかわからないからだ。街に着く前に日が暮れてしまったら、寒い夜を夜通し歩いて過ごすことになる。まあ、街の中にいても絶対安全なわけじゃないけど、街の外にいるよりはるかにマシだ。  そういえば――ふと、最後に星を見ながら外で眠ったのはいつだったかと思い返す。  三年前はまだ山でキャンプをし、星を見ながら眠ることは危険でも何でもなかった。こんなに危険と隣り合わせの生活を送るようになったのはいつだ? 答えはあの聖夜イブの夜からだ。  俺はあの時の光景を今でも鮮明に覚えている。  夜空を覆い尽くすような量の流れ星に扮した《種子》たちが降り注ぎ、俺たちの日常をあっという間に粉々にしたあの光景を。  夜空から降り注いだ《種子》たちには大地に根を張り、民家を破壊するものもいれば、人々に寄生し養分を得て自由に動き回るようになったものもいた。宗教者はこれを「今まで散々、自然を蹂躙してきた人間に対する神の罰だ」と言い、またあるSFマニアはこれを「宇宙から正義の巨人が来て人類を助けてくれる前触れだ」と言った。 「いつ思い出しても、くだらないな」  そうだ、くだらない。実にくだらない。何が神の罰だ。何が正義の巨人だ。俺の中で怒りと憎しみの感情がふつふつと湧き上がってくる。《種子》たちへの怒りと憎しみが俺の中で暴れまわる。 「俺は許さない」  俺たちの日常を壊し、俺の大事な人を奪った《種子》たちを――。  俺は脳裏にある少女の顔を浮かべた。記憶の中の彼女はそのショートカットの黒髪を揺らしながら、笑っている。 「……一葉(かずは)」  待っててくれ。必ずお前のもとに行くから。  絶対に、助け出すから。
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