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「凄い人なんやなぁ」 「一年に一度のものだからね」 白い息を吐きながら人混みの流れに合わせてゆっくりと歩いて、 人垣で作られた川は迷うことなく、一点を目指して進む。 目前に厳かに佇む拝殿には高紫の御掛が揺れ、香煙が絶えず昇っている。 年明け、 不夜城と称されるカジノ『Gold.』もこの日ばかりはその閂を閉じ、 皆奈とレイは漸く揃って取れた休暇に名の知れた寺院へと詣でることにしていた。 カウントダウンのイベントで夜明けまで勤務していた2人は、 一睡とって詣でたのだが 「この時間はあかんかったなぁ」 ちょうど人出の多い時間帯に重なり参拝の列に並んでかれこれ30分は経っている。 そうして、本殿に参れたのは、それから15分後のことだった。 「はぁ~しんどかったわぁ」 「お疲れさま」 げっそりといった顔で息をつく皆奈の背中を、優しい手が撫でる。 賽銭箱の前で揉みくちゃにされた様子もない涼しい顔に「さすが」とだけ笑う。 「レイさんは何お願いしたん?」 「んー、お願いっていうより御礼かな。去年も一年元気に過ごせました、って」 「なんやレイさんらしいわ」 「皆奈は?」 「せんかった。したら神様に怒られてしまうわ」 首を傾げる恋人を引き寄せ、その額にキスを落として笑う。 「今でもこんな幸せやのに、もっと願い事なんて贅沢やで~って」 目を見開き、そして笑う姿が愛しくて。 願いを心に留めたまま、ぎゅっと抱き寄せた。
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