Chapter1

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それから、しばらく時間がたった頃。 「ねえ」 ひとりベンチに座っていた雪乃の目の前に、鮮やかな茶髪の女性が現れる。 明るすぎるその髪色に、雪乃は一瞬だけ眉をひそめた。 「何ですか」 飲みサーの勧誘はノーセンキューだ。 「あのね、アタシ並木ギターの」 「いや、ちょっと興味ないんで」 面倒な話を押し付けられる前に断っておくのが得策だろう。 雪乃は苦笑いを浮かべ、適当に手を振った。 「人の話は最後まで聞かなきゃ駄目よ。アタシ福森夕紀子。名前なんて言うの」 「桜木…雪乃です」 夕紀子の勢いに圧倒され、思わず名乗ってしまう。 夕紀子は軽く頷いた。 「で、あんた音楽に興味は」 「ありません」 これ以上深入りされたくない一心から、とっさに雪乃は嘘をついた。 本当は高校時代から音楽活動に憧れてはいたのだが、面倒なので伏せておいた。 「あーそう。残念ね。じゃあちょっと話だけでも聞いてってちょうだい。どうせ桜木、あんたヒマでしょ」 雪乃に反論する隙すら与えずに、彼女の腕を強引に引いていく夕紀子。 良かれと思っての発言が、まさかこういう展開を引き起こすとは。 雪乃は、小さなため息をついた。 「聞いて!美少女ナンパしちゃった!」 嬉しそうに並木ギターデスクの部員に自慢する夕紀子の声を、背中でぼんやりと聞きながら。
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