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「ウチのサークルは」
夕紀子に連れて行かれた先で、雪乃は並木ギターデスクの説明を受けていた。
彼女の目の前に座って説明を続けているのは、真っ赤な頭髪をした好青年。
名を、篠本真央と言った。
「まあ色々やってはいるんだけどな。やっぱ一番コアなのはギターってとこか」
言いながら、彼は手許のアコースティックギターを掻き鳴らした。
のびやかな弦の音が辺りに響く。
「良かったら、入ってくれよな。まぁ楽しいから」
そのとき、彼女は少しだけ迷っていた。
並木のサークルには入らないと決めていたのだが、篠本の説明を受けるうちこのサークルが魅力的に思えてきたのだ。
だが、僅かに残る意地のためかすぐ頷く気にはなれず、雪乃はしばらく無言のまま下を向いていた。
「無理に勧誘しなくても」
と、不意に雪乃の背後から聞き慣れぬ低めの,呟くような声が聞こえる。
振り向くと、そこにはやはり見慣れぬ男性が立っていた。
年頃にしては少し小柄な青年だ。
鋭く、何かを睨むような表情をしている。
「おー。友樹くん。何か言った?ごめんよく聞こえんかった」
「無理に勧誘しても,そういう人ってすぐやめてしまうじゃないですか」
友樹と呼ばれた男の言葉が、雪乃の闘志に火を付けた。
何よいきなり。2年だか3年だか知らないけど。
というか。ちょっと怖い。けど!とにかく妙に腹が立つ。
「ここに入れてください」
さっきまでの優柔不断さが嘘のように、彼女は高らかに宣言していた。
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