Chapter1

10/12
前へ
/60ページ
次へ
雪乃がギターデスクに入って、数日が経った。 その日の彼女は授業の履修・時間割を考えて履修届を記入すべく、 同じ高校から同じ大学に進学した友人である梅園かおりとともに、キャンパス隅の学生食堂に来ていた。 「って訳なんだけど」 どうやら雪乃は、サークル勧誘でのあの一連の話をしているらしかった。 時折、豪快なため息が漏れる。 「それで雪乃ちゃん、そこに入っちゃったんだ」 「そうなの。完全に勢いだわ」 「何だか雪乃ちゃんらしい話だね」 「そうかな」 開講講座一覧を眺めながら、かおりがくすくす笑う。 笑い事じゃないのに…と呟く雪乃。 そして知り合いを見かけたのか、かおりはいきなり満面の笑みを湛えて大きく手を振った。 「山本くーん!」 聞き覚えのある名前に、雪乃の表情が凍りつく。 まさかと思い振り向いてみると、かおりが手を振る先には2人の先輩の姿があった。 確か…山本一護と三角友樹とかいう名前だったか。 まさか、こんなところでお会いするとは。 つくづく運がない。 「お!梅園!」 そして彼もかおりに気付いたのか、笑顔でこちらに近づいてくる。 「ちょっとかおり、あの人と知り合いなの?」 近づいてくる一護に聞こえぬよう小声でそっと尋ねる雪乃。 かおりは、にこっと笑って答えた。 「中学の友達だよ」 「友達?」 「うん。ちょっと年上だけど」 友達だか先輩だか知らないが、まさかサークルの先輩と友人が知り合い関係にあるとは心外だった。 それにしてもタイミングが悪すぎる。 「久しぶりだな梅園」 「うん!山本くん並木学院だったんだね」 楽しそうに話す二人。 雪乃は作り笑いを浮かべ、彼らの様子を見ていた。 みんな、どうしてこんなにも普通に異性と話せるのだろうか。 と言うか自分が異性慣れしていなさすぎるだけなのか。 どうでもいいことをぐるぐる考えながら、彼女は彼らが立ち去るのを待った。 と、一護がかおりの履修届を覗き込む。 「履修組んでんのか」 俺らもそろそろ履修届を更新しねえとな、と言いながら笑う一護。 「先輩は何学部なんですか」 何となく口を挟んでしまった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加