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雪乃がギターデスクに入って、数日が経った。
その日の彼女は授業の履修・時間割を考えて履修届を記入すべく、
同じ高校から同じ大学に進学した友人である梅園かおりとともに、キャンパス隅の学生食堂に来ていた。
「って訳なんだけど」
どうやら雪乃は、サークル勧誘でのあの一連の話をしているらしかった。
時折、豪快なため息が漏れる。
「それで雪乃ちゃん、そこに入っちゃったんだ」
「そうなの。完全に勢いだわ」
「何だか雪乃ちゃんらしい話だね」
「そうかな」
開講講座一覧を眺めながら、かおりがくすくす笑う。
笑い事じゃないのに…と呟く雪乃。
そして知り合いを見かけたのか、かおりはいきなり満面の笑みを湛えて大きく手を振った。
「山本くーん!」
聞き覚えのある名前に、雪乃の表情が凍りつく。
まさかと思い振り向いてみると、かおりが手を振る先には2人の先輩の姿があった。
確か…山本一護と三角友樹とかいう名前だったか。
まさか、こんなところでお会いするとは。
つくづく運がない。
「お!梅園!」
そして彼もかおりに気付いたのか、笑顔でこちらに近づいてくる。
「ちょっとかおり、あの人と知り合いなの?」
近づいてくる一護に聞こえぬよう小声でそっと尋ねる雪乃。
かおりは、にこっと笑って答えた。
「中学の友達だよ」
「友達?」
「うん。ちょっと年上だけど」
友達だか先輩だか知らないが、まさかサークルの先輩と友人が知り合い関係にあるとは心外だった。
それにしてもタイミングが悪すぎる。
「久しぶりだな梅園」
「うん!山本くん並木学院だったんだね」
楽しそうに話す二人。
雪乃は作り笑いを浮かべ、彼らの様子を見ていた。
みんな、どうしてこんなにも普通に異性と話せるのだろうか。
と言うか自分が異性慣れしていなさすぎるだけなのか。
どうでもいいことをぐるぐる考えながら、彼女は彼らが立ち去るのを待った。
と、一護がかおりの履修届を覗き込む。
「履修組んでんのか」
俺らもそろそろ履修届を更新しねえとな、と言いながら笑う一護。
「先輩は何学部なんですか」
何となく口を挟んでしまった。
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