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  「……えっ?」  必死にもがいても身体を起こそうとしても、私の身体はぴくりとも動かなくなっていた。 私の自分の身体へ視線を落とし、漸く今の状況と自身の状態を理解する。 何時の間にか私の両腕は後ろに回されて、制服の上から胸部ごと白色のロープの様な物で拘束されている。 頭痛も和らぎ、身体を縛られ拘束されている事を肌で実感して、私は両目に涙を溜めて戦慄した。 「や、やだっ! 何でこんな!?」  拘束されているのは両腕だけではない。 両足も同じ様に白色のロープで強く縛られている。これでは身動き一つ取れない。 両手両足を塞がれた今の状態で、この場から逃げ出す事は不可能だ。 事の重大さも身に染みて理解し、私は大粒の涙を流して喉の奥から声を絞り出す。 「だ、誰かっ! 助けて!!」  これから降霊術の生け贄に捧げられる。女子生徒達が話していた噂が事実なら私は── 逃げる為の手段も封じられ、記憶の底から這い出して来る恐怖に耐え兼ね、私は無心となって泣き叫び助けを乞う。  彼等六人以外、近くには誰も居ない。 夕闇に覆われた雑木林の中へ、彼等以外に足を踏み入れる者が居るだろうか。 そんな簡単な事さえ判断出来ない程、今の私は錯乱している。 胸中にあるのは、一刻も早くこの場所から退避したいという願いだけだった。 「煩いわね! こんな事位で一々泣き喚くな!」  私の悲鳴に気を損ねて、彼の傍らに立っていた黒い長髪の女子学生が此方へ歩み寄り、私の背中を力強く蹴り飛ばした。 衝撃を受け私の身体はひっくり返り、うつ伏せとなって赤茶けた土の上に顔を叩き付け激しく咳き込む。 背中や顔面に走る痛みと息苦しさから悲鳴も止まり、私は閉じていた瞳を開く。 「ひぃぃ……っ!?」  自身の眼前……赤茶けた土の上を一匹の赤い百足(むかで)が、うろうろと這い回っている。 私の視界に飛び込んできたそれと眼を合わせて驚愕し、悲鳴を圧し殺して私は地に顔を伏せ、きつく両目を閉じた。 「百足ごときにびびっちゃって、この子、結構可愛い所あるんじゃない。紗輝?」  にやついた笑みを浮かべて、背を屈めたまま私の近くに立つ金髪の男子生徒は彼の名前を呼び、気安く声を掛けた。 顔を伏せて泣きじゃくり、身を震わせ怯える私の姿を前に、彼も嫌気が差したのか冷たい言葉を発する。 「こんな腰抜けの根暗女。可愛い訳あるかよ」 「そ、残念。地味だけど、顔だけは可愛いのにね」  
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