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嗚咽の声を漏らす私の肩を叩いて、金髪の男子も軽々しく足音を立てて私の前から離れていった。
這い回っていた赤い百足も遠くに離れて、私は顔を上げて背後へ振り返り彼等に視線を送る。
私を腰抜けと罵る彼と、黒い長髪と吊り上がった瞳を持つ女子学生。金髪の軽薄そうな男子学生。
一番背の高い黒髪の男子学生。周りと比べて小柄な短髪の女子学生。
六人の中で唯一……私服姿で背が低く小学生にも見える気弱そうな男子。
地に伏せた状態に因り視界は悪いが、私を痛め付ける全員の特徴もどうにか把握する事が出来た。
生け贄にされて、無事で済むかどうかも分からないが、私は彼等の顔を決して忘れないだろう。
「じゃあさ、そろそろ。クルゥストゥス様を喚んじゃおっか?」
仲間達の間で一頻り会話を交わし、此方へ駆け足で向かい短髪の女子学生が口を開く。
恐怖に震える私には一切の興味も無いのか。此方を振り向く事無く、底抜けに明るい笑顔を彼や金髪の男子生徒に向けて彼女は相手の返答を待つ。
「そうだな。日が暮れる前に、その都市伝説が本当かどうか試してみようぜ」
一番背の高い男子生徒も、嗚咽を漏らす私へ冷たい視線を浴びせ掛け、辛辣な言葉を口にする。
弱い者虐めにも等しい行為を行いながらも、彼の口調や表情から罪悪感という物を感じる事は出来なかった。
人相が良く、爽やかな第一印象を与える彼も紗輝の味方らしい。
逃げ場も救いも無い絶望的な状況から、諦めが付いた様に息を吐き私は両目を閉じた。
溢れる涙も渇き、紅潮した頬に痛みが伝わってくる。
踊り場で訊いた噂が本当なら、どうせ私はクルゥストゥスに憑り殺されてしまうんだ。
それなら、いっそのこと此処で楽にさせて欲しい。
もうこれ以上、怖い目にも遭いたくない。
高圧的な彼等へ屈伏せずに、自らの意志を相手へ伝える度胸も私には無い。
唯……嗚咽の声を漏らし、襲い掛かる恐怖から目を背けているだけの自分自身を哀れむ。
「あ、あの。加納さん……やっぱり降霊術なんて、止めませんか?」
自身と同じ様に怯えた声が耳に届き、私は目を開いて発言した相手の顔を覗く。
気弱そうに見える私服姿の男子。儀式の為の小道具を持ち出す彼等を制して、私服姿の男子は頻りに首を振り、戸惑いの表情を私へと向けた。
「降霊術なんて大層な物、素人がやっちゃいけないって……死んだお祖母ちゃんがよく言ってたんです」
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